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2月19日は20世紀の大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・シゲティの没後50年の命日です


ストラヴィンスキー:デュオ・コンチェルタンテ~エクローグ1 1959年録音
(P)1959 Universal International Music B.V.

2023年2月19日(日)はハンガリーが生んだ20世紀の大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・シゲティ(1892~1973)の没後50年の命日にあたります。シゲティは、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータを現代に復興した立役者、同時代の作曲家バルトーク、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーなどと交流し積極的に紹介した功労者、晩年は海野義雄、潮田益子、久保陽子、前橋汀子、宋倫匡、佐藤陽子など日本人ヴァイオリニストを多数育成した日本楽壇の大恩人でもあります。ここではシゲティの生涯と代表盤をご紹介いたします。
(タワーレコード 商品統括部 板倉重雄)

バンドマスターの息子として生まれる
ヨシュカ・ジンガー、後にヨゼフ・シゲティとして知られる大ヴァイオリニストは1892年9月5日、ハンガリーの首都ブダペストで生まれた。父はカフェのバンドのマスターで音楽教師、父の兄弟はヴァイオリン奏者やコントラバス奏者、叔母はハンガリーの民俗楽器、ツィンバロンの演奏家だった。シゲティが生まれて間もなく母が他界したので、彼はカルパチア山脈のふもとの小都市、マーラマロシュ=シゲト(Máramarossziget)に住む祖父母の下で少年時代を送った。この都市名が「シゲティ」の名の由来である。叔母にツィンバロンの手ほどきを受けた後、二人の伯父からヴァイオリンのレッスンを受けるようになった。そのうち一人は名教師イェネー・フーバイ(1858~1937)の弟子で、コロンヌ管弦楽団のメンバーでもあった。息子にヴァイオリンの才能があると知った父は、ブダペストへ連れてゆき、フランツ・リスト音楽院を受験させた。審査委員長のフーバイはシゲティの演奏を聴き、即座に自分のクラスに編入することを決めた。フーバイの下で急速な進歩を見せたシゲティは、「神童」として活動するようになった。1903年には後の大作曲家ベラ・バルトーク(1881~1945)に出会っている。

神童時代


バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番~前奏曲 1908年録音
(P)1997 Biddulph Recordings

1905年秋、13歳のシゲティはフーバイのとりなしでベルリンへデビューした。曲目はエルンストの協奏曲嬰ヘ短調《悲愴》、バッハ:《シャコンヌ》、パガニーニ:《妖精の踊り》という、技巧曲中心の内容だった。演奏会は大成功し、1905年12月10日のベルリン日報は「音楽の神童―ヨゼフ・シゲティ」と題し、彼の写真を掲載した。
1905~06年の冬、シゲティはベルリンで二人の巨匠と出会っている。一人はブラームスの盟友でヴァイオリニストのヨゼフ・ヨアヒム(1831~1907)。シゲティはヨアヒムのピアノ伴奏でベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾き、賞賛の言葉を受けた。もう一人はピアニストで作曲家のフェルッチョ・ブゾーニ(1866~1924)である。ブゾーニは1906年にシゲティ少年へ次の言葉を贈った。
「わたしの望むのは、あなたの芸術があなたを満足させること― しかるのちに他人を満足させること。しかし前者の方が大切です」
以後、シゲティはブゾーニの感化を受けながら芸術家として成長。19世紀的な「ヴァイオリンの神童」だったシゲティは、いつしか時代の美意識を先導する「新即物主義の旗手」と見なされるようになってゆく。
ドイツでの活動のあと、シゲティはイギリスに渡り、1908年9月30日、英HMVへ初録音を行った。曲目はバッハの無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番の前奏曲。レーベル面にはヨゼフの幼名、ヨシュカ・シゲティと記された。以後、英HMVへ1913年までに11曲の録音を行っている。

結核での転地療養と楽壇復帰


バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番~アダージョ 1931年録音
(P)1999 Biddulph Recordings

1913年、シゲティは結核を患い、スイス、ダヴォスのサナトリウムでの転地療養を余儀なくされた。この間、音楽好きの主治医の計らいでチューリヒの音楽図書館から自由に音楽書や楽譜を借り、レパートリーを増やしたという。1917年、病の癒えたシゲティはジュネーヴ音楽院のヴァイオリンのマスタークラス主任を命じられ、6年間その地位にあった。同時にヨーロッパ各地での演奏活動も再開した。1923年、ブリュッセルでバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタを演奏し、客席にいたウジューヌ・イザイ(1858~1931)を感激させ、彼に無伴奏ヴァイオリン・ソナタ全6曲を作曲するきっかけを与えた(第1番はシゲティに捧げられている)。1924年、前年にマルセル・ダリューが初演し不評だったプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番をプラハで演奏して大評判を呼び、この作品の認知に貢献した。1925年には名指揮者レオポルド・ストコフスキー(1882~1977)の招きで初訪米し、フィラデルフィアとニュ-ヨークでベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を弾いて大成功を収め、シゲティの名声は決定的なものとなった。1926年にはレコード録音に復帰し、英米のコロムビアと契約して、戦後のLP期まで長い関係を続けた。1931年からはロシア出身で、パリ音楽院で学んだ当時19歳のニキタ・マガロフ(1912~1992)とデュオ・チームを結成し、2年間、世界を二回りする大演奏旅行を行った。この間、世界各地で200回以上もの演奏会を開き、1931年5月と1932年12月には来日して絶賛を博している。
1938年には自身に捧げられたブロッホのヴァイオリン協奏曲を初演しているが、当時作曲されたばかりのベルク、ラヴェル、バルトーク、プロコフィエフ、ストラヴィンスキー、ミヨーらの作品を積極的に紹介したのは彼の功績の一つである。

アメリカへの移住、最後の来日、スイスでの晩年


ブラームス:ヴァイオリン協奏曲~第3楽章 1959年録音
(P)1960 Universal International Music B.V.

第2次世界大戦が勃発するとアメリカへ移住し、バルトーク、シュナーベル、アラウ、フォルデス、ハンブロ、ブゾッティら知性派のピアニストたちとデュオを汲み、古典から現代音楽に至る幅広いレパートリーを演奏、録音した。戦後はヨーロッパ楽壇にも復帰。1953年3月には3度目の来日を果たし、日本の聴衆に再び強烈な印象を与えた。
1958年、長年のコロムビアとの録音契約を離れたシゲティは米マーキュリー、米ヴァンガードと契約。その芸術の最後の輝きをLPレコードに刻み込んだ。
シゲティは1960年にスイスに移住し、1973年2月19日に亡くなるまで後進の指導にあたった。チョン・キョンファ、アーノルド・スタインハート、ネル・ゴトコフスキー、そして我が国の海野義雄、潮田益子、久保陽子、前橋汀子、宋倫匡、綿谷恵子、佐藤陽子などが教えを受け、その精神は今も受け継がれている。

シゲティ名盤ご紹介

(1)マーキュリー・マスターズ<限定盤>

1959~61年、ステレオ録音。シゲティの没後50年を記念して、初めて集成された米マーキュリーへの晩年の録音集です。ベートーヴェンから20世紀作品まで、シゲティが得意としたレパートリーが鮮明なステレオで録音されており、行きついた境地を示しています。ベートーヴェンとブラームスのヴァイオリン協奏曲での「絶唱」と言うべき演奏は有名。また、彼が1924年の再演以来、使命感をもって演奏し続けたプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番での迫真の演奏も、いまだ他の追随を許しません。

(2)J.S.バッハ: 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV1001~1006(全曲)

1955~56年、モノラル録音。20世紀初頭、無伴奏ソナタ全曲の演奏が珍しかった頃から、シゲティは積極的にこの作品集を演奏し、戦前のSPレコードへのソナタ第1番と第2番の録音は、この2曲の世界初録音でした。これは戦後の録音で、シゲティにとって唯一の無伴奏ソナタ全曲録音となります。細部まで徹底して追究しつくした演奏で、独自のアーティキュレーションで作品のポリフォニーを浮き上がらせ、作品を立体的、かつ意味深く、力強く鳴り響かせています。

(3)コンプリート・コロンビア・アルバム・コレクション<完全生産限定盤>

1938~56年、モノラル録音。シゲティのアメリカ時代の録音が集成されており、大作曲家バルトークやストラヴィンスキーがピアノを弾いての協演録音も含まれるなど、演奏面の充実とともに音楽史的にも意義深い録音です。チェロの巨匠カザルスと共演したブラームスのピアノ三重奏曲第2番(ライヴ録音)は大家同士の凄まじい情熱の高揚がまさに聴きもの。ピアノの名手ホルショフスキと共演したベートーヴェンのソナタ第1、5、7、10番、ブラームスのソナタ第1&3番で示した深い味わいにも、ぜひ接していただきたいと思います。
※2023年12月、再プレスされました。

(4)ヨゼフ・シゲティ ヴァイオリン小品集(コロムビア正規録音集)<完全限定盤>

1926~37年、モノラル録音。シゲティのヨーロッパ時代のSP録音を復刻したもの。本来ならばCDを取り上げるべきですが、現在適当な復刻盤が廃盤となって見当たらず、このLPレコードをご紹介します。ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ第4番、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタK.304は、シゲティの壮年時代を代表する名演で、その音の逞しさ、フレージングの瑞々しさ、高みを目指す若々しい志などが、音から伝わってきます。カップリングされた、バッハからストラヴィンスキーに至る小品集も魅力たっぷりです。

カテゴリ : Classical

掲載: 2023年02月19日 00:00

更新: 2023年12月25日 00:00