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鈴木慶一&KERA=No Lie-Sense『Japan's Period』発売記念インタビュー

No Lie-Sense

鈴木慶一とKERA、二人の鬼才が手を組んだユニット、No Lie-Senseが2年半ぶりの新作『JAPAN'S PERIOD』をリリース。高田漣、矢部浩志、上野洋子、ゴンドウトモヒコなどをゲストに迎え、前作『First Suicide Note』で展開したシュールで毒気たっぷりのポップ・センスはさらに深化。高度成長期の日本をテーマにした歌の世界は、60年代の日本の光と影をコミカルに描き出しながら現代社会に朗らかに警鐘を鳴らす。内容はもちろん、タイトルもジャケットもすべてが挑発的な新作について、二人に話を訊いた。

インタビュー:村尾泰郎

 

──今回のアルバムは前作以上にコンセプチュアルな印象を受けましたが、アルバムの内容について話し合ったりされたのでしょうか。

KERA「〈高度成長期〉というキーワードが最初にあったんですけど、そこからどんなものを拾っていくか、というところまでは話をしていませんでした。でも、最初の頃にできた慶一さんの歌詞、〈ミュータント集団就職〉とか〈大東京は大食堂〉とかがすごかった。高度成長期にも様々な側面がある。躍進的なポジティヴなイメージの裏に隠された陰の部分を詞にしていけば面白いアルバムになると思ったんです。なのでアルバムのトータル・イメージの先鞭をつけたのは慶一さんでしたね」

鈴木慶一(以下、慶一)「1964年とか高度成長期が面白いんじゃないかって先に言ったのはKERAだけどね」

──オープニング曲は1964年公開のミュージカル映画『君も出世ができる』のカヴァーですが、これはKERAさんのアイデアだったとか。

KERA「そうです。ずっとやりたかったけど、やる場がなくて。「No Lie-Sense」で「高度成長期」、ならば、今こそ『君も出世ができる』の出番だと思ったんですよね」

──そもそも、何故この曲を?

KERA「映画に知り合いが出てたんです。子供の頃に可愛がってくれてたおじさんが二人出てて。坊主頭の田中淳一っていうコメディアンと、タップダンスを踊ってる泉和助っていう当時ギャグマンを生業にしてた人。フランキー堺や森川信にギャグを書いてた。でも、本人が演じるとさっぱり面白くないっていう不遇の人です」

──その二人に対するオマージュみたいな想いがあったんですね。

KERA「それも無くは無いけど、それよりこういう幻の名作映画は折に触れて〈こういう映画があるよ〉って宣伝してあげなきゃいけない気がするんです」

鈴木「私は今回、生まれて初めて観たけど、フランキー堺が歌いながら出勤するシーンは良くできていると思ったね」

──あの映画にも、高度経済成長期の光と影みたいなものがさりげなく描かれてましたね。あと、1964年といえば東京オリンピックの年ですが、そのあたりも意識して?

KERA「ありましたね。2020年(の東京オリンピック)を前にして、今はグッド・タイミングだろうと」

──過去を題材にしながら、そこには今の社会に対する眼差しもある。

KERA「全世界の人類に警鐘を鳴らす問題作ですから(笑)。自虐的なところも大いにあるけど」

──自虐というか、屈折というか。テーマに対するヒネくれたアプローチの仕方に、No Lie-Senseのニュー・ウェイヴ精神を感じさせますね。

鈴木「ニュー・ウェイヴは二人の共通点だから」

KERA「サウンド云々というより精神性においてね」

鈴木「だからこそ、未来は希望に満ちている、とみんなが思っていた1964年頃に焦点を当てると、当然、屈折するんだよ。プリズムみたいに。〈明るい未来〉の裏側を探ったりする」

──そんななかで、「高橋」「山下」っていう二人の登場人物が出て来ますが、何か由来があるのでしょうか?

鈴木「最初にKERAが書いた歌詞に出てきたんだよ」

KERA「〈塔と戯れる男二人〉ですね。この曲はNo Lie-Senseでムード歌謡をやりたくて、書いたんですけど、擬人化された東京タワーを巡って、ホモ・セクシャルとおぼしき二人の男が歌ってるイメージがあった。二人の男の名前はなるべく平凡な方がいいなと思ったんですよ。へんちくりんな名前にするとイメージが特定されてしまうから。それこそ、〈鈴木〉〈小林〉(KERAの本名)でも良かった(笑)。でも、慶一さんがこの二人を広げるとは思わなかった」

鈴木「1曲、オペラにしたかったから、これはもう曲の主人公にするしかないなと。二人で歌詞のやり取りをしていると、そういうことがでてくるんだよ。

──今回も前作同様、歌詞をやりとりしながらアルバムの世界を広がっていったんですね。「高橋」と「山下」が登場するのは2曲だけですけど、慶一さんとKERAさんのデュエットでアルバムが進んでいくので、アルバムの主人公みたいに思えてくるんですよ。

KERA「どういう関係なのかなって聴く人は想像するよね。戦友なのか、それとも、戦争に行くのをギリギリ免れた人なのか。先輩と後輩なのか、あるいは、ベタベタのホモなのか(笑)」

──しかも、〈塔と戯れる男二人〉ではセリフが入るじゃないですか。それで妄想も膨らむ。

KERA「オケが出来た時、〈ここセリフが入ったら良いな〉って思ったんです。セリフって他のユニットにはあまりないでしょ」

──KERAさんの頭の中には具体的にストーリーがあったんですか?

KERA「まあ、映画の予告編みたいな感じですね。二人でひとりの女性に会いに行って、歓迎されていたと思ったら次の瞬間には〈出てって! トンチキ野郎ども〉って言われてる。何があったか知らないけど(笑)。もっとも、この女性は実在しないかもしれない。山下と高橋のイメージの中の東京タワーの声かもしれない。」

──そういう演出も手伝って、アルバムは前作以上に物語性豊かでサウンドも多彩になりました。昭和歌謡、GS、労働歌、いろんな60年代っぽいサウンドが詰め込まれている。なかでも〈オペラ 山下高橋(悲しき靴音 いや、ゆゆしき死の音)〉は異色作というか、ちょっと現代音楽っぽいところがまた60年代っぽくも感じました。

慶一「トム・ジョンソンっていう現代音楽家がいるんだけど、その人の作品に『4音のオペラ』っていうのがあって。それは4つの音しか使わないオペラなの。その日本語版世界初演を去年見に行って、それがめちゃくちゃ面白かったんだよ。昔風の現代音楽なんだけどね。それに影響を受けて作った曲で、見に行った次の日に曲を作り始めた。それに日本語を乗せたら、これがまた珍妙な感じになってね。ハマりが良けれりゃいいやと思って言葉をハメていったけど、〈シエラネバタ〉とか出てくるのは、どこか頭の中にネバタ砂漠の核実験場とかあったのかもしれないな(笑)」

──〈チョイナン海岸の運び屋〉の展開もスゴいですね。途中から突然、GSになって。しかもコーラスは島唄風。

KERA「僕が作ったデモは出だしの感じのまま、最後までゆったりいく曲だったんですけど、エレキ入れておいたほうが良いんじゃない?ってことになって」

鈴木「GSをね。それで歌詞を書く時に思いついたんだけど、当時、ベンチャーズが人気だった頃に海に行くとバンドが練習に来ててそれをタダで聴けるんだ。そんなことを思い出しながら、そこにベトナム戦争とかいろんなものを絡めていった」

──あと、ヘンな擬音語だらけの〈労働者たち〉の歌詞のナンセンスさは、前作の〈けっけらけ〉に通じる世界ですね。

KERA「そういうのが当時流行ったしね。三木鶏郎さんがバリバリ活動してた時代だったし、CMソングにしてもアニメソングにしても擬音語だらけだった」

──慶一さんとKERAさんの共通点として、ニュー・ウェイヴ以外にも三木鶏郎的ポップ・センスがあると思うんですよ。ノベルティ・ソングっぽいポップさというか。だからイビツなことをやってても、そこにユーモアと風刺がある。

KERA「鶏郎さんは根っこにあるかもしれないですね。有頂天の頃から言われてたから」

鈴木「〈センス・オブ・ヒューモア(ユーモアを解する心)〉は会話のなかで一番大事だから。いや、大事というか常に発散しているものだね」

KERA「そう、当たり前にあるもの。以前はひとつの武器というか、権威に対してジョークで返すみたいなところがあったけど、これまでそれをずっとやってきて、今では飯食ったりするのと同じですね」

──何かに対して怒るというより、笑い飛ばす。今の日本にいちばん欠けてるものかもしれないですね、ユーモアのセンスって。

鈴木「我々は何かあったら〈冗談、冗談〉って逃げる(笑)」

KERA「70年代のパンクってユーモアに欠けるというか、融通がきかない人が多かった気がするね。それがバンドの寿命を縮めてたような気がする。だって、そんなに切羽詰まって歌ったら、そりゃすぐ終わっちゃうよ。歌い切っちゃうし、疲れちゃう(笑)」

──パンクは太く短くって感じですから。その点、No Lie-Senseは超マイペースというか、大人の余裕を感じます。

KERA「我々はやりたい時にやる」

鈴木「デヴィッド・ボウイも常に変わり続けることで乗り切ったからね」

タグ : J-インディーズ

掲載: 2016年05月19日 16:36