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インタビュー

BOOM BOOM SATELLITES



パーソナルな本質に立ち返り、作り手の魂が感じられるダンス・ミュージックを志向した最新アルバム。その後の逆境をポジティヴなエネルギーへ転換し、会場を高みへと導いた武道館ライヴがCD/DVD盤で登場!



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90年代後半のイギリスでファットボーイ・スリムやケミカル・ブラザーズが起点となったブレイクビーツ/ビッグ・ビートの大きな流れ。当時、ロンドンで活動していたBOOM BOOM SATELLITESはそのなかで世界デビューを果たすも、周囲に埋没することなく、15年のキャリアを通じて、ダンス・ミュージックを演奏するバンドとしての先進性を追求し、そのパフォーマンスは彼らにとって揺るぎない個性となった。

「そう。デビュー初期、生のバンドがクラブ・ミュージックを演奏するのは珍しいことでしたし、それ自体がエクストリームな個性だったんですよね。でも、観るだけでなく、踊る楽しみも一般化した2000年代に入ると、自分たちのライヴの方法論を突き詰めて考えなければ、時代遅れになるという危機感もあって。一方でMySpace以降、音楽トレンドの移ろい方が加速して、価値観も多様化、複雑化していくなかで、その状況を追っていくとなると取り留めのないことになってしまうんですよね。でも、僕たちは自分たちのことを大切にしていきたかったし、そうなった時、僕らが立ち返ったのはよりパーソナルな本質の部分だったんです」(中野雅之、プログラミング/ベース)。

そして、ダンス・ミュージックの匿名性を離れ、より記名性の高い、作り手のソウルが感じられる音楽性を志向した彼らは、今年1月リリースの最新アルバム『EMBRACE』完成直後に川島道行(ヴォーカル/ギター)の脳腫瘍治療による全国ツアー中止を発表。その回復を待って行われた武道館ライヴの模様をCD/DVDに収めた作品集『EXPERIENCED II -EMBRACE TOUR 2013 武道館-』は図らずして2人の葛藤が表出した特別なものとなった。

「武道館のライヴはその日を無事に迎えられるかどうかわからないという地点から始まっているし、ツアーという助走もなく、武道館という大会場での初めてのライヴをクリアしなければならないプレッシャーは相当なものがあって、ライヴ中は何事もなく終われるように、とドキドキしてました」(中野)。

「退院後のリハーサルで、思い通りにいかないことを山ほど実感しつつ、それでも武道館当日はやってきて。意気込みはもちろんあったんですけど、空回りさせてもいけないし、最後までライヴをやり切ることができるのかという不安も抱えつつ、最善のパフォーマンスを楽しんでもらうため、懸命にメンタルとフィジカルのバランスを取ろうとしていましたね。ただ、目の前に僕たちの音楽を楽しみに来てくれた人たちがいてくれたからこそ、進んでいくにつれ、ライヴをやってよかったなという感慨に至りました」(川島)。

そう語りながら、彼らはこの作品に〈病気からの復活〉というバイアスがかかってしまう危惧を口にする。しかし、逆境がポジティヴなエネルギーへと転換されているからこそ、映像や舞台装置を削ぎ落としたライヴは、高純度のダンス・トラックと明暗が投影されたリリック、そして、その2つの要素を一身に背負う川島という存在を通じて、観る者、聴く者を高みへと導くBOOM BOOM SATELLITESの圧倒的な力を実感させる。

「社会や生活における音楽の価値が変化するなかで、どうしたら音楽をもっと愛でてもらえるのか。そのためにいまの僕は音楽家としての質量を高めたいなと思っていて。そこには生き方や音楽に込める魂も含まれているんですけど、そうしたことを念頭にここから何を切り拓いていくのか。BOOM BOOM SATELLITESがどんな佇まいでいられるのか。いま一度、夢を掴むような、そんな感覚で音楽に向き合っていきたいですね」(川島)。



▼BOOM BOOM SATELLITESの作品。
左から、2010年作『TO THE LOVELESS』、2012年のシングル“BROKEN MIRROR”、2013年作『EMBRACE』、2011年のライヴ盤『EXPERIENCED』、2012年のリミックス盤『REMIXED』(すべてソニー)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月26日 14:15

更新: 2013年11月26日 14:15

ソース: bounce 360号(2013年10月25日発行)

インタヴュー・文/小野田雄