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変わらないロンドンを歌うマッドネス

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2012/10/17   17:58
更新
2012/10/17   17:58
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、スカ・シーンの重鎮・マッドネスのニュー・アルバム『Oui Oui Si Si Ja Ja Da Da』について。古き良きロンドンの風景を歌う彼ら。復活後は、その味わいがさらに増していて——。



今年の〈フジロック〉におけるスペシャルズのステージで、アンコール前の最後の曲“You're Wondering Now”には感動しました。スカタライツがいたからやってくれたんだと思うけど、48歳のオッサンにもジーンときました。

スペシャルズのファースト・アルバムにして名盤『The Specials』でも、アルバムを締め括る曲でした。銃で撃たれたギャングスターが、自分がいままでやってきたことを回想しながら死んでいくという歌です。ボブ・ディランの“Knockin' on Heaven's Door”といっしょですね。

スカタライツのヴァージョンは、死んじゃうのに〈ああ、これで終わりなのかな〉と能天気に歌っているところがギャングスターっぽくて格好いいです。

エイミー・ワインハウスもこういう感じで歌ってたんですかね。エイミーは本当に逝ってしまいましたが。

でも、スペシャルズのヴァージョンは若い奴らに〈逝ったらあかんよ〉と歌ってくれているんです。出だしの天国への扉を叩くところでそれがわかるんです。〈入っているよ〉って追い返される。天国への扉がトイレというギャグがシャレてますね。この部分があるだけで、この歌が〈終わっちゃったな、これからどうしよう〉〈もう一回やり直そう〉という歌に聴こえてくるんです。『Specials』は、そんなふうに若者に対するメッセージの歌が満載なんです。でも、48歳のオッサンにもグッとくるんです。

復活したスペシャルズが日本でも海外でも大成功しているのはまさにこれなんです。若い奴らに向けたメッセージは、何も変えなくっても、オッサンにも新しい世代にも響くのです。

マッドネスは逆にいい感じに歳を取っていっている。特に新作『Oui Oui Si Si Ja Ja Da Da』はいい。枯れている感じがいいんです。窓の外に広がる夜の街を眺めながら、いろんなことを思い出して歌っている感じがいいんです。でも、ヴォーカルのサグス(グラハム・マクファーソン)の声がまだ若々しいので、〈俺たち、まだがんばるか〉みたいな気持ちにさせてくれるのです。いやー、しかし、サグスの声は本当に独特でいいですね。

プロデューサーも凄いんです。クライブ・ランガー(エルヴィス・コステロ)、スティーヴン・ストリート(スミス)、オーウェン・モリス(オアシス)、リアム・ワトソン(ホワイト・ストライプス)――こんな大物プロデューサーたちが、一つのアルバムに入るなんてあり得ないです。

そうそう、“Death Of A Rude Boy”のリミックスを頼まれたアンドリュー・ウェザーオールも、いつも通りのヘヴィーな歌なしリミックスを作ったらバンド側から〈歌ありがいいんだけど〉とリミックスのやり直しをお願いされ、〈わかりました〉と、なんとリミックスのやり直しをしたそうです。普段の彼だったら〈俺のリミックスはこんな感じだし、気に入らなければ使わなければいいじゃん〉と言うところ、さすがマッドネスですね。

アンドリューが愛する古き良きロンドンが、マッドネスの作品には投影されているのだ。それは復活してからもいっしょ。いや、よりいっそう味わい深いものになっている。2階建てバスの2階のいちばん前に座ってロンドンの街を通っていく時、いつも流れる歌はマッドネスだった。それはいまもいっしょだろう。そして、50歳を越えているであろうマッドネスの面々による今回の歌も、また凄く合っている。このアルバムを聴きながら2階建てバスに乗ってロンドンをブラブラしたいな。ロンドン・オリンピックがあったけど、きっと何も変わってないだろう。変わらないロンドンをマッドネスは歌っている。そんななかで老いていく自分たち。悲しいけど、いいじゃない? 人生なんてそんなものだ。若い人たちにも聴いてもらいたいアルバム。

まだ凄いことがあった。デザインはあの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』で有名なピーター・ブレイクなんですよ。

愛される偉大なバンド、マッドネスに乾杯。