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映画『ブランカニエベス』

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2013/12/12   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text:小沼純一 音楽・文芸批評家/早稲田大学教授


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©2011Arcadia Motion Pictures SL, Nix FIlms AIE, Sisifo Films AIE, The Kraken Films AIE, Noodles Production, Arte France Cinema



沈黙の闘牛〜全編モノクロ、台詞無し!Simple is Beautifu!!!!!!

さっきまで着ていた真っ白い衣裳を大きなたらいにつけこみ、とりだすと、それは真っ黒に染まっている。何というモノクロームの深さ、奥ゆきか。白と黒でこそありえるこのシーンに、息をのむ。

ストーリーはあらかじめわかっている。「ブランカニエベス」、白雪姫のスペイン語。寒いドイツ低地の民話からグリム童話へ、そしてこの映画の舞台は1920年代、温暖なスペイン南部へ。

紋切り型を承知で、スペインといえば、色彩、とおもう。太陽が照り、花が咲き乱れる。たとえばひまわりの黄とこげ茶、緑。それがここではわざと消し去られ、白と黒、になる。そしてこの無限のグラデーションによってこそ、北からやってきた白雪姫のイメージを、南国に翻訳することができるのだ。

セリフはすべて、古風なサイレント映画のように、画面と画面のあいだに挿入される文字のみ。冒頭にはオーケストラのチューニングがおかれ、ほぼ全篇にわたって、音楽はなりつづける。



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©2011Arcadia Motion Pictures SL, Nix FIlms AIE, Sisifo Films AIE, The Kraken Films AIE, Noodles Production, Arte France Cinema



音楽はアルフォンゾ・デ・ヴィラロンガ。オーケストラが中心で、シーンによってはフラメンコとなり、オケ部分とコントラストをなす。だが、明確なコントラスト以上に、オーケストラの多様な語法が生きている。シーンによって雰囲気が変わる。何らかの描写が音楽によってなされる。これまで「クラシック」が培ってきたヴォキャブラリーと、映画音楽が積みあげてきた音とシーンのシンクロニシティが統合される。オペラでもバレエでも交響詩でもいい、映画でもテレヴィでもCFでもいい、音楽が何かと結びつけられ、効果として役立ってきた語法、喜怒哀楽やユーモアが、一瞬の変化が、時間のながれとともに、瞬間瞬間に生きる。いや、そんなものは、映画が終わってしまえば忘れさえするかもしれぬ。だが、である。観ているあいだに、わたし、わたしたちは、ことばではなく、映像と音楽とによってこそどんどん引っ張られ、一喜一憂する。映画のなかにでてくる小人たちによる闘牛や余興を楽しむように。そう、この映画において、あらためて音楽の雄弁さに気づく。

闘牛場に足を運ぶ人びと、気球、牛と闘牛士、指先を大きく広げながら踊る祖母、暗い地下室のなかにうごくカエル、ポーズをとる継母、風になびく洗濯物……こうしたものたちの動きは、音楽が紡いでゆくストーリーにはおさまりきらない細部をつくりだし、文字どおり、映像と音楽をポリフォニーとして現出する。

発見と満足とかなしみと……芸術という以上に見せ物としての映画を、新しい世紀にとりかえす試みには、やはり民話の力が必要なのかもしれない。



映画『ブランカニエベス』


監督・脚本:パブロ・ベルヘル
音楽:アルフォンゾ・デ・ヴィラロンガ
撮影:キコ・デ・ラ・リカ
出演:マリベル・ベルドゥ/ダニエル・ヒメネス・カチョ/アンヘラ・モリーナ/マカレナ・ガルシア/ソフィア・オリア/インマ・クエスタ/ホセ・マリア・ポー/他
配給:エスパース・サロウ(2012年 スペイン、フランス)
◎新宿武蔵野館ほか全国絶賛公開中!
http://blancanieves-espacesarou.com/